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曲がり角に立つクルマのマルチマテリアル化(1)軽量化よりコスト・リサイクル優先の傾向が強まる

テクノロジー環境資源

燃費や運動性能向上のために完成車メーカー各社が取り組む軽量化。自動車にとっては永遠の課題だが、その切り札となる手法と位置づけられてきた「マルチマテリアル化」が曲がり角に立っている。様々な種類の材料を適材適所で使うという、一見理にかなったこの手法が停滞しているのだ。クルマのマルチマテリアル化の最新動向を2回に分けて紹介するこの記事の第1回では停滞するマルチマテリアル化の背景を追う。

クルマのマルチマテリアル化が注目されるきっかけを作ったのが2013年秋に欧州で発売されたドイツBMWの「i3」である。i3はBMW初のEV(電気自動車)専用車種で、アルミニウム合金製の押出材を基本構造に使ったシャシーの上に、CFRP(炭素繊維強化樹脂)製のアッパーボディをかぶせた構造を採用し、車両重量を1260kgに抑えたのが特徴だ。同じクラスのエンジン車を改造してEV化するのに比べると、250〜360kg軽く仕上がっているという。

BMWがi3の軽量化にこだわったのは、クルマを軽くすることが航続距離を延ばすのに直結するからだ。発表当時、i3は最高出力125kWのモータと容量18.8kWhのリチウムイオン電池を搭載し、航続距離は最大で200kmだった。もしここから250kgも車重が重くなっていたら、車両が2割程度重くなる分、航続距離は2割程度減ってしまっていた可能性がある。2013年当時、リチウムイオンバッテリーのコストは1kWhあたり600〜700ドルと現在の4倍だった。仮に車体を軽量化せずに同等の航続距離を実現しようとすれば電池コストは3000ドル近く増えていたはずだ。

確かにCFRPやアルミ合金を使って軽量化するのもコストがかかる。しかし、同じコストをかけるなら、軽量化で航続距離を延ばした方が多くのメリットを得られる。車体が軽ければ、同じ出力のモータでも運動性能が向上するからだ。それにバッテリー容量を増やして航続距離を延ばそうとすると、バッテリーの重量が増えるだけでは済まず、それを搭載する車体の衝突安全性の強化などのために車両重量が増えてしまい、バッテリーの容量を増やした割に航続距離が延びないというジレンマに陥る。

高級セダンもマルチマテリアル化

BMWはi3のCFRP製ボディの製造のために、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)という生産性の高いCFRP部品の製造設備を導入したほか、製造したCFRPを接着剤を使って接合する車体組み立て設備も新たに導入した。

i3への大胆なCFRPの導入は当時大きな話題となったが、それ以上に業界に衝撃を与えたのが、EVばかりでなく、エンジンを積む通常の車種にもCFRP部品を導入し始めたことだ。その代表が同社の最高級車「7シリーズ」である。2015年に発売した6代目7シリーズは、カーボン・コアと呼ぶ、CFRPを芯材に使って鋼製フレームを強化した車体構造が特徴だ。具体的には、ルーフサイドレール、サイドシル、センタートンネル、センターピラーなどにCFRP製の補強材を組み込んだ。この結果、ボディ骨格は40kg軽量化できた。7シリーズのような量産車種にCFRPを組み込んだマルチマテリアルボディが採用されるのは初めてのことだった。

車体骨格にCFRPで補強した鋼製部品を多様したBMWの6代目「7シリーズ」(出所:筆者撮影)

CFRPだけでなく、ルーフパネルやフロンドサイドフレーム、ストラットタワーなどをアルミ合金製とするなど、鋼、アルミ、CFRPを適材適所に配置したマルチマテリアル構造とすることで、車体重量を先代よりも140kgも軽量化したのが大きな特徴だ。

マルチマテリアル化を進めたのはBMWだけではない。ドイツ・アウディも2017年秋に発売した最高級セダンの4代目「A8」で、主要骨格にアルミ合金のプレス成形品を使いながらも、これにアルミ鋳造品、アルミ押出品、ホットスタンプ材(軟鋼板を加熱してプレス成形し、急冷することで強度を向上させた高張力鋼板)や軟鋼板など複数の材料を組み合わせたマルチマテリアル車体を採用した。

こうしたマルチマテリアル化には国内メーカーも取り組んだ。ホンダは2016年に発売した高級スポーツカー「NSX」(2代目)でマルチマテリアル車体を採用した。アルミ合金の押出材を主要な骨格に使いながらもアルミのプレス成形品、アルミ鋳造品、CFRPフロアパネル、SMC(シート・モールディング・コンパウンド)製外板部品などを採用した。

ホンダの2代目「NSX」。アルミのプレス成形品、アルミ鋳造品、CFRPフロアパネル、SMC製外板部品などを組み合わせたマルチマテリアル構造を採用した。(出所:筆者撮影)

下火になったマルチマテリアル化

このように、マルチマテリアル化が注目されるきっかけをつくったBMWだったが、電動化が本格的に進み始めた最近の新型車では、新素材の採用はむしろ後退している。最新のEV専用車種である「iX」は、i3のようなオールCFRPボディではなく、鋼製部品をCFRPで補強する6代目7シリーズと同様の構造である。また、2022年4月に発表された7代目7シリーズは、詳細は発表されていないが、6代目よりもCFRPの使用箇所は縮小しているようだ。

BMW以外のメーカーを見ても、ドイツ・フォルクスワーゲンやトヨタ自動車、日産自動車などが相次いで発表したEVは、みなエンジン車と同様に鋼板のプレス成形品を主要な部材に使った車体を採用しており、マルチマテリアル化は進んでいない。その理由は大きく二つあると考えられる。

最新EVの例。トヨタ自動車の「bZ4X」。通常のエンジン車と同様の鋼製車体を採用した。(出所:筆者撮影)

一つは低コスト化が非常に強く要求されることだ。現状のEVはバッテリーが高コストなため、同じクラスのエンジン車に比べると100万円程度、車両価格が高い。現在は各国政府が手厚い補助金を支給して実質的な価格差を小さくするように支援しているが、こうした政策は恒久的に続くものではない。このため各社が投入するEVは、エンジン車とプラットフォームを共有していたり、あるいは専用プラットフォームであっても、エンジン車と生産ラインを共通化したりして、コスト低減を図っている。当然使用する材料も、高コストなCFRPやアルミ合金は使えず、鋼製プレス部品を中心とした汎用的な材料の使用が多い。

もう一つの理由は、一つ目の理由と矛盾するようだが、バッテリーのコストが低下していることだ。BMWのi3が登場した2013年に比べ、リチウムイオンバッテリーのコストは約1/4の150ドル/kWh程度まで下がっている。例えば冒頭のi3の例でいえば、航続距離を2割延ばすために必要なバッテリーのコストは700〜800ドルで済むことになる。コストをかけて車体をCFRP化するよりも、むしろバッテリーを増やすほうが、航続距離を延ばすための安いソリューションになったわけだ。

加えて、三つ目の理由を挙げるとすれば、i3が登場した約10年前に比べると、地球環境に対する意識は格段に高まり、素材に対するリサイクル性が強く要求されるようになっている。リサイクルが容易な鋼やアルミに比べて、リサイクルしにくいCFRPや樹脂が敬遠されていることも、マルチマテリアル化が下火になってきた背景にある。

このように、クルマのマルチマテリアル化には逆風が吹いているが、それでは今後はもうマルチマテリアル化は進まないのか? 筆者は全く新しい可能性が開かれていると考えている。次回は電動化時代のマルチマテリアル化の可能性を考える。

(執筆 オートインサイト代表 鶴原吉郎)

2022.08.15

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