車はますますクリーンに、低燃費になる一方で、自動車メーカーは自らの壮大な脱炭素化目標を達成するために、さらに持続可能な材料を必要としています。
自動車業界では、環境にやさしい車の生産が進む
内燃機関を動力とする新しいタイプの車は、エンジン技術の高度化や構造用複合材料の軽量化などの進歩により、これまでになくクリーンで低燃費になっていまです1。ハイブリッド車や電気自動車も進化し、新車生産台数に占める割合が年々高くなっていることは、今後の先行きの明るさを示しています。しかし、自動車産業は2020年の世界の輸送部門のCO2排出量のうち約77%を占め、依然、環境に重大な影響を及ぼし続けています2。
脱炭素目標の達成にはもっと持続可能な材料が必要
自動車メーカーの多くが環境規制の厳格化を見越して、さらに厳しい脱炭素目標を数年内に達成しようと取り組んできました。欧州委員会の「2030年気候目標計画」は、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で55%以上削減することをすでに求めています3。また、カリフォルニア州の改訂版CAFE(企業平均燃費)規制は2024年と2025年モデルの乗用車および軽トラックの燃費を年間8%向上させることを義務付け、2026年モデルにはさらに10%が上乗せられます4。
車両性能の向上だけでは今後の排出ガス要件を満たすには不十分なので、多くの自動車メーカーは生産工程で持続可能な材料をより多く使用することでさらなる排出量の削減に挑戦しています。例えば、熱可塑性プラスチックは高温で溶かして再成形するだけで安価にリサイクルできます。車の熱可塑性プラスチック部品のリサイクルは増加傾向であり、欧州委員会は2025年までにリサイクルした熱可塑性プラスチックの含有率を25%にすることを義務づける「使用済み自動車指令」5の改訂版を2022年中に発表するようです6。
熱可塑性プラスチックはリサイクルが容易ですが、熱硬化プラスチックほど強度がなく、構造上応用範囲が限られます。熱硬化性プラスチックは、溶融が容易でないポリマー(化学結合を含む)のせいで現状ではリサイクルが困難であり、費用も高くつきます。使用済み熱硬化性プラスチック部品のほとんどはリサイクルが非常に面倒であるため焼却か埋立処分となり、結果的にCO2排出を増大させるだけとなっています。
熱硬化性プラスチックは有用であるため、自動車メーカーはより容易で安価にリサイクルできる方法を模索しています。しかし、今のところ満足いく結果を得られていません。例えば、熱可逆性結合した特殊な熱硬化性ポリマーはリサイクルが容易なので代替材料として研究されてきましたが、残念ながら熱的堅牢性に欠けるため、エンジン部品の近くまたは直射日光の中で長時間使用することができないのです。
新しいアイデアは、熱硬化性プラスチック部品リサイクルに革命をもたらすか?
2021年、Teijin Automotive Technologies (TAT)の先端材料の上席研究者二人が、熱的・機械的堅牢性を維持しながら分子レベルで熱硬化性プラスチックを再設計し、リサイクルを簡素化する方法を提案しました7。この方法を用いると、例えば、従来の不飽和ポリエステル中のスチレンモノマーを触媒利用下で、また室温で化学結合が壊れる代替ポリマーに置き換えることができます。その後触媒を除去すれば結合を回復させることができ、ポリマーおよび繊維を同じ用途に再使用することが可能になります。
現行の熱硬化性ポリマー複合物リサイクル技術では、多くのエネルギーを使っても回収される材料は価値が低いものでした。TATは、エネルギー投入量を最小限に抑えながら高価値の回収材料を作ることができる革新的な新ソリューションを開発しています。
研究者チームによりすでに理論は証明されており、マーケットの需要の検証や、サプライヤーの候補を見つけるまでに至っています。現在は、代替結合の評価とエポキシのリサイクル工程プロセスの最適化を進めており、次の段階では製造レベルのリサイクルを目指し、成形トライアル実施と設備最適化を図ります。
このプロジェクトが成功すれば、世界で初めて、機械的および熱的に堅牢でリサイクルしやすい熱硬化性材料の商業化となります。さらに、TATは非常に効率的な閉ループのリサイクル工程で、車両部品の大半を成形できるようになる見込みです。これによりバージン原料が減少し、生産エネルギーを減らすことで、顧客のサプライチェーンの環境への悪影響を低下させ、結果として企業の長期的な持続可能目標の達成に役立つことになります。
TATはメーカーと協働してさらなる環境配慮型ソリューションを開発します
この新たな熱硬化性材料の可能性に興味を示した自動車メーカー数社がTATにアプローチし、リサイクルと持続可能性の取り組みへの支援を求めています。厳しい排出目標の期限が刻々と近づき、今後ますます規制が厳しくなることが予想される中で、このような環境に優しいソリューションに対する需要は増え続けるでしょう。
TATは、自動車メーカーにとってより良いソリューションを創り出すため、ますますコラボレーションに力を入れていきます。欧州・米国・中国・日本の5つの組織が一つになり設立されたTATはその多様な強みを最大限に発揮し、帝人と力を合わせてモビリティ産業のための複合材料およびソリューションを提供して世界をリードすることを目指しています8。
次世代のモビリティソリューションとなる先進的な材料を、ぜひTATと開発しませんか。
熱硬化性ポリマー複合物の革新的なリサイクル法を提案したDavid Krug博士(左)とMichael Z. Asuncion博士(右) 。二人はTATの先端材料の上席研究者であり、現在このソリューション開発のプロジェクトを率いています。
リンク
1 The 2021 EPA Automotive Trends Report (要旨)
2 VISION 2050 A strategy to decarbonize the global transport sector by mid-century
3 European Commission 2030 Climate Target Plan
4 NHTSA Corporate Average Fuel Economy
5 European Commission End-of-Life Vehicles
6 Car industry unconvinced by calls for mandatory recycled plastic target
7 Teijin Automotive Team Named Finalists in the 2021 Idea Proposal Program
8 Five Strong Organizations Rebranded to form Teijin Automotive Technologies